私が遭遇した新型コロナウィルス禍でのデマ、不明情報

この新型コロナウィルス(COVID-19)での社会不安は広範囲であり、3月、4月は増え続ける感染者数に加え、品薄、外出自粛など心理的ダメージを受けることが多かった。そこに東日本大震災熊本地震でも流れたエビデンス不明な情報、明確なデマが今回の新型コロナ禍においても流された。

 

すでに多くの公的機関や報道機関でファクトチェックが行われ、デマを挙げたらきりがない。今回は世界的規模の厄災であり、世界中でデマが飛び交っており一から列挙するのは不可能なので当職の周辺に回ってきたエビデンス不明情報、デマを挙げて教訓としたい。

 

思い返せば東日本大震災でもチェーンメールという形で現実的ではない呼びかけがあった。当職の場合は学生時代の先輩が西日本の住民も積極的に節電し被災地、計画停電が起きている東日本(東京電力管内)に送電しようという内容のチェーンメールを転送してきたことがあった。現実的に東日本と西日本では周波数が違うため、送電が必要な状況ではなかったのだが、当時をしのぶものがないので思い出として残るのみである。このチェーンメールもそうであるが、悪意や悪質ではない一見善意とも思える内容で回覧が始まり、内容が少しずつ変容していくのがこうしたものの特性でもある。今回、私の元にもたらされたものも、報道とは微妙に変化しており、様々な人が介在した形跡を感じた。

 

ワクチンに関する不明情報

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新型コロナウィルス禍における不明情報の流布(イブプロフェンについて)

内容はCOVID-19で亡くなった人がイブプロフェンロキソニン、市販解熱鎮痛剤のバファリン(頭痛薬)、イブクイック(頭痛生理痛)を服用していたのでやめましょうというもので、WHO報道官が3月17日にイブプロフェンを自らの判断で服用しないように注意を促し、それに先立つ3月14日にフランスのベラン保健相がイブプロフェンを含む抗炎症剤が症状を悪化させ得るとTwitterに投稿したことに端を発した不明情報である。5月10日現在ではこの説は科学的根拠がないものとされ、ベラン保健相も投稿を削除している。3月中旬にヨーロッパで流れたこの不明情報が私の元へ届いたのが4月7日で、その間、日本語訳がなされ、内容にロキソニンバファリン、イブクイックとなじみ深い市販薬が追加されている。内容もWHOから始まり「UH」なる機関が出てきてそこに勤める「同僚の友人」というこの手の不明情報拡散常套句が登場している。そして、ウィーンという地名が登場し、再び研究施設とある。文脈をなしていないようにみえるがこれは不明情報の元になった「ウィーン大学病院の話」というのが日本に到達する過程でウィーンと「University Hospital」=「UH」とが分離し、別の話のような態を為したと考えられる。なぜロキソニンバファリン、イブクイックが加わったのかは不明である。イブプロフェンに関する情報を発したWHOは4月19日にこの情報については科学的根拠は現時点でないとしている。

【公的機関による情報】

厚生労働省新型コロナウイルスに関するQ&A(医療機関・検査機関の方向け)4月22日時点

問25 イブプロフェン新型コロナウイルス感染の症状が悪化するという話を聞きましたが、どのように考えればよいでしょうか。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00004.html#Q25

 

BBC JAPAN【解説】 新型ウイルスにイブプロフェンは危険? 事実と作り事の区別を

https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-51956596

 

この連絡をくれた人(1)からすればその「情報」をくれた「人」というのは最短でも知り合い(2)の知り合いの同僚(3)の友人(4=「人」)と途方もない遠い存在である。故鳩山邦夫代元法相は「友達の友達はアルカイダ」と発言し釈明にする事態(2007年)になったがそれだけでも遠いし、実際事実ではないのであるから「知り合いの知り合い」レベルの話はその時点で不明情報と扱うものと考えるべきであろう。なぜ市販薬が追加されたのか、考えたり書いてみようと思ったがその行為がこの不明情報を脚色し、信頼性を与えてしまう。連想ゲームのように話が大きくなり。広がっていくのだろう。

 

ロックダウン(都市封鎖)に関するデマ

1月25日、中国の武漢市が感染拡大で都市封鎖(ロックダウン)を行い、イタリアでは3月9日全土外出制限、アメリカニューヨーク市では3月22日に自宅待機令を発した。東京で3月23日、小池百合子東京都知事は記者会見ではじめてロックダウンについて発言し、3月24日には7月に予定した2020年東京オリンピックが延期が決まった。30日にコメディアンの志村けんの死去(29日死去)が報道され、ロックダウンはいつなのかや具体的日付を記したデマがSNS上で拡散した。新型コロナウイルス特措法は14日に施行されており、「緊急事態宣言」発令の内容にロックダウンが含まれるのではないかという観測が広がった。しかし、特措法はロックダウンの規定はなく、そもそも戦後の日本は都市を封鎖するという様な戒厳令や非常事態に関する法令は規定されておらず、国、地方次自治体が国民に行動制限を強制する法令は存在せず、それに近い法律としては災害対策基本法における第63条で警戒区域への退去、立ち入り制限・禁止は定めらてはいるものの、この事態を政府は災害と定義しておらず、ロックダウンはそもそも不可能であり4月7日、政府は緊急事態宣言を発令し、その後各自治体が外出自粛、休業要請・指示を出すという現下の状況となっている。

 

ここで警戒区域が制定されている法令を確認したい。

災害対策基本法(63条→自然災害)

・水防法(21条→水害)

・消防法(23条の2・28条→火災)

土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(土砂災害防止法→土砂災害立ち入り制限なし)

津波防災地域づくりに関する法律(8章53条→津波災害立ち入り制限なし)

原子力災害対策特別措置法(27条の6→原子力災害)

武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(国民保護法:114条→武力攻撃)

暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴対法15条の2→指定暴力団の抗争暴力団員以外は立ち入り制限なし)

以上がこの記事を書いている時点での警戒区域設定の現行法である。

 

 つまり、現時点での日本では首相も自治体の首長もロックダウンをする法的根拠も権限もなく、できないのであるが、うわさは流れ東京がロックダウンされ、買いだめを推奨するデマが広がった。

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東京ロックダウンデマ。(TV局プロデューサー版)

 私の元にきたのはTV局のプロデゥーサー版で、このほかにも、大手企業の取締役、安倍総理の秘書官などの派生版があるが文はどれも同じである。問題はこの連絡が入ったのが3月30日の昼、文の初出は28日ごろといわれており、緊迫性を煽る文言が加わり、ここでも「大切な人に回してください」というデマの常套句が使用されている。実際3月初旬のトイレットペーパーデマでの品薄への恐怖感を再起させるような文言となっており、自分たちのみが知っているという情報の先取りを感じさせ、緊急性を強調し、総理、プロデューサーなど役職をだして権威付けをしているものの、伝聞であり発信者不明、拡散要請など、デマの教科書のような文章に仕上がっている。このデマ自体は30日午後の官房長官会見で明確に否定され、4月6日、7日の緊急事態宣言前の官房長官会見で欧米型ロックダウンはないということが示された。

 

令和2年3月30日(月)午後 内閣官房長官記者会見 

https://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/202003/30_p.html

令和2年4月6日(月)午後 内閣官房長官記者会見

https://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/202004/6_p.html

 

今後求められるもの

今回の事態は自然災害と違い目に見える形での物理的破壊がない。また、世界規模の問題であり各国の政治体制や政治力、有事法制の整備の有無など、社会構造的な問題を多分にはらんでいる。現政権をどうみるかで政府や行政から発せられる情報に対する信頼の感じ方もその人それぞれである。

それゆえにまず日本が法治国家であるという前提に立って現行法制下で行政にどれほどの権限が与えられているかを知る必要がある。

また、デマの常套句である、友達の友達であるとか、伝聞情報はこれはその時点で信ずるに値しないものであることを思い返す必要がある。そしてそれを拡散しないことにある。

冷静にというのはなかなか難しい。もし冷静さを欠いてしまったとき、そのための教養であり、学習であると考える。

これから先まだ事態がどうなるかは"誰も"わからない。それゆえにこの事態においては情報を多角化し、身内で完結させないことにあると愚考する。

防災士としてはこの事態の収拾に直接何か役立つというこは難しいだろう。それゆえ起きたことを記録し、教訓として伝えたいと思う。

私が遭遇したデマや不明情報は以上のとおりである。なお、画像はプライバシーに配慮し一部加工した。